トルクレンチは、使っていても、しまっておくだけでも少しずつずれていきます。タイヤ交換だけに使う個人でも、校正はメーカーがすすめる1年を目安に考えるのがよいでしょう。
この記事では、校正の頻度の考え方、頼み先と費用・日数の調べ方、校正か買い替えかの決め方、ずれにくいしまい方、家で確かめる方法とその限界を説明します。
タイヤ交換で20年以上トルクレンチを使ってきた立場から、メーカーや校正会社の案内を、年に数回しか使わない人の目線で整理しました。
トルクレンチは狂う。使っていても、しまっておくだけでも
トルクレンチの値は、使い込んだときだけでなく、使わずにしまっておいたあいだにも少しずつずれます。設定した数字のとおりに締まっているかは、見た目やカチッという音ではわかりません。
中のばねと部品が、少しずつ変わる
タイヤ交換でよく使うクリック式のトルクレンチは、柄の中に入ったばねの縮み具合で値を決めています。目盛を回すとばねが縮み、設定した力に達すると中の部品が外れてカチッと鳴るしくみです。
精度が変わるおもな原因には、次のようなものがあります。
- 中のばねや部品のすり減り
- 使う回数の多さ
- 最大の目盛を超える力をかけたこと
- 落としたり、強くぶつけたりしたこと
- 高温多湿や、ほこりの多い場所での保管
- 長いあいだの保管
- まちがった使い方
使っていてもいなくても、狂う原因はあるということです。しまい方が悪いと、精度が落ちるのも早くなります。
どれくらいずれるのか
ずれ方は、使い方やしまい方で変わります。喜一工具の校正サービスは、100N・mに設定して正しく使っていたのに、実際は90N・mでしか締まっていなかった例を紹介しています。1割の差です。
工具のレンタル会社が、1年以上校正していないトルクレンチを調べたところ、約50%が基準に合わなかったそうです。会社や工場で使われていたものの調査なので、タイヤ交換で年に数回使うだけの個人の工具に、そのまま当てはまる数字ではありません。ただ、「買ったときのまま、ずっと正しい」とは考えないほうがよいでしょう。
狂ったまま締めると、どうなるか
実際の力が設定より弱ければ、ナットは決められた値まで締まりません。振動でゆるむ原因になります。反対に強ければ、ねじ山を傷めたり、ボルトが破断したりするおそれがあります。
困るのは、どちらの場合もカチッとは鳴ることです。鳴った時点では、それが本当に設定した力なのかを確かめようがありません。音や手ごたえがいつもどおりでも、設定と実際の力に差が出ていることがあります。
トルクレンチは、ナットを決められた力で締めるための測る道具です。長く使っているものほど、今の値が正しいかを一度疑ってみる価値があります。
校正は製造時の1回きり?頻度の目安と、タイヤ交換だけに使う人の考え方
校正は、作られたときの1回で終わりではありません。目安は「約1年か約5,000回の、早いほう」です。タイヤ交換で年に数回使うだけなら、回数より先に1年が来ます。
頻度の目安は「1年か5,000回」
工具メーカーは、1年に1回ほどの校正をすすめているところが目立ちます。回数で見るなら、カチッと鳴らす回数で約5,000回が区切りです。JIS(日本産業規格)でも、管理のしかたが決まっていない場合の最初の目安として、12か月か約5,000回という考え方が示されています。
もっと細かく管理する場合は、3か月から1年の範囲で周期を決め、校正のたびにどれだけずれていたかを見て、周期を縮めたり延ばしたりしていきます。よくずれる工具は短く、ほとんどずれない工具は長く、という考え方です。周期を延ばすかどうかを決めるのは、使った回数ではなく、校正で見えたずれの記録のほうです。
新品に校正証明書や検査成績表が付いていれば、日付と内容を確かめます。条件を満たしていれば、買ってすぐ校正し直す必要はない場合もあります。ただ、出荷時の検査の効き目がずっと続くわけではありません。
タイヤ交換だけなら、回数より年数で考える
たとえば、ナットが20個の車で、夏タイヤと冬タイヤを年2回履き替え、そのたびに増し締めもすると、カチッと鳴らすのは年に80回ほどです。5,000回に届くには何十年もかかるので、目安になるのは年数のほうです。
では、使う回数が少なければ周期を延ばしてよいかというと、そうとは限りません。周期を延ばせるのは、何度か校正して、そのたびに精度が安定していると確かめられた場合です。一度も校正していない工具には、比べる材料がありません。
また、会社の工具と違って、個人のタイヤ交換で校正証明書を求められることはありません。でも、証明書が要らないことと、精度を確かめなくてよいことは別の話です。締めつける相手は、走っている車のタイヤです。
時期を待たずに確かめたいとき
次のようなときは、1年を待たずに確かめます。
- 落とした、強くぶつけた
- 最大の目盛を超える力をかけた
- カチッという音や手ごたえが前と違う
- 何年も使わずにしまっていた
何年もしまっていたものは、久しぶりに使う前に校正しておくと安心です。春と秋にしか出さない道具は、使っている時間より、しまっている時間のほうがずっと長いものです。迷ったら、1年を基準に考えるのがよいでしょう。
校正はどこでできる?依頼先と、費用・日数の調べ方
トルクレンチの校正は、メーカーか、校正を請け負う業者に頼みます。メーカーに頼む場合は、自分で直接送るのではなく、買ったお店を通して頼む形が多いです。費用と日数は、会社や工具によって違います。型番を伝えて、見積もりを取るのが確実です。
メーカーに頼むなら、買ったお店から
国内の工具メーカーには、販売店を通して校正や修理を受け付けているところがあります。たとえばKTCは、校正や校正証明書の発行を、取扱販売店から依頼するよう案内しています。修理の納期も、依頼した販売店に聞く形です。
メーカーに頼むよさは、ずれていたときに、自社の基準で調整や部品の交換までしてもらえることです。まずは買ったお店に「このトルクレンチを校正に出したい」と伝えてみましょう。ホームセンターで買った場合も同じです。調べた範囲では、店頭で校正まで受け付けているという案内は見つからなかったので、メーカーへ取り次いでもらえるかを聞く形になります。ネット通販や中古で買った場合は、受け付けの条件が変わることもあるので、メーカーの窓口に確かめておくと安心です。
校正業者に頼む方法もある
校正を専門にしている業者や、工具のレンタル会社でも、トルクレンチの校正を受け付けているところがあります。いろいろなメーカーの工具をまとめて出せるのが、業者に頼むよさです。
ただ、どの業者でも、すべてのメーカーや大きさに対応しているわけではありません。測るだけはできても、調整や修理はできないこともあります。
費用と日数が変わるところ
費用と日数は、おもに次のようなことで変わります。
- 工具の種類と、測れる力の大きさ
- 付けてもらう書類(検査の結果だけか、校正証明書やトレーサビリティ体系図まで付けるか)
- ずれていたときの調整や、部品の交換が要るかどうか
- 送料や、急いでもらうときの料金
会社で使う工具では、国の基準とのつながりを示す書類や、JCSSという制度の証明書を求められることがあります。でも、タイヤ交換に使うだけなら、そうした書類は要らないことがほとんどです。
日数は、数日で戻ってくることもあれば、修理が入って数週間かかることもあります。タイヤを履き替える時期の前に、余裕をもって出しておきましょう。
頼むときに伝えること
問い合わせや見積もりのときは、次のことを伝えると話が早く進みます。
- メーカー名と型番(本体に書いてあります)
- 測れる力の範囲(たとえば「40〜200N・m」)
- 証明書が要るかどうか
- ずれていたら、調整や修理もしてほしいか
調整や修理が要るとわかったとき、先に連絡をもらえるかも聞いておくと、思わぬ出費を防げます。
校正に出すか、買い替えるか、手で締めるか
結論から書くと、選ぶのは「校正に出す」か「買い替える」かのどちらかです。手の感覚だけで締める、という選び方はおすすめしません。校正の見積もりと新品の値段を比べて、修理が要るときや、もともと安い工具なら買い替えも理にかなっています。長く使うつもりの工具なら、校正に出しましょう。
手の感覚だけで締めるのは選ばない
ホイールナットは、締めすぎても、ゆるすぎても困ります。締めすぎると、ボルトが伸びたり折れたり、ねじ山やホイールのナットが当たる面が傷んだりします。ゆるすぎると、ナットがゆるんで外れることがあります。大型車の車輪が外れる事故の原因として、国土交通省も「規定の締付トルクで締め付けられていない」ことを挙げています。
ボルトを締める試験では、トルクレンチを使っても、握る位置や力の向き、人によって締める力がばらつくことがわかっています。目盛のある工具を使ってもぶれるのですから、目盛のない手の感覚だけで、決まった数字にそろえるのはむずかしいと考えたほうがよいでしょう。
「狂っているかもしれないから、トルクレンチをやめて手で締める」は、ずれを小さくするどころか、どれだけずれたかもわからなくなる選び方です。
校正に出すとよいとき
- これからも長く使うつもり
- 修理を受け付けているメーカーの品で、部品が手に入る
- 見積もりが、新品を買うより安い
メーカーによっては、測るだけでなく、ずれていれば調整までしてくれます。修理が要るかどうかは、工具を見てから見積もりが出ることがあるので、先に金額の連絡をもらえるか確かめてから出しましょう。
なお、メーカーによっては、精度を測るだけ、部品を1つ替えるだけ、といった頼み方は受けず、校正と調整、悪いところの修理をまとめて行う形をとっています。そのぶん、戻ってきた工具は安心して使えますが、費用は「測るだけ」より大きくなることがあります。
買い替えたほうがよいとき
- 見積もりが、新品の値段に近いか、上回る
- メーカーが修理を受け付けていない品
- 落としたあとなどで、目に見えて傷んでいる
なお、ホームセンターのオリジナル品などには、説明書や商品ページに「本製品は校正できません」と書かれているものもあります。こうした品は、ずれが気になったら買い替えるしかありません。新しく買うときも、校正に出すつもりなら、買う前にここを確かめておきましょう。
メーカーの修理の対象になっている品でも、作るのをやめたものは、部品の在庫がなくなりしだい修理できなくなることがあります。古い工具ほど、買い替えのほうが早い場合があります。
新品には、出荷のときに精度を測った結果を書いた検査成績表が付いているものがあります。買い替えれば、そこから1年の数え直しになります。
どちらにするか迷ったら、まず型番を伝えて校正の見積もりを取り、新品の値段と並べてみるのが近道です。
狂わせないための保管のしかた(最小目盛に戻す理由)
使い終わったら、目盛を最小まで戻してからしまいます。ただし、最小目盛より下までは回しません。そのうえで汚れをふき取り、ケースに入れて、湿気が少なく、落とす心配のない場所に置きます。年に数回しか使わない道具は、しまい方で精度の持ちが変わります。
最小目盛に戻すのは、ばねを休ませるため
クリック式のトルクレンチは、中のばねを縮めて、締める力を決めています。目盛を高くしたままにすると、ばねは縮められたまま、何か月も力を受け続けることになります。
最小目盛に戻してばねをゆるめておくのは、精度を長く保つためです。工具の校正を手がける会社も、長くしまうときはもちろん、毎日使う場合でも一日の終わりには下げるのが理想だと案内しています。タイヤ交換が終わったら、まず目盛を戻す。これを片づけの最初の手順にしておくと忘れません。
「0」まで回し切らない
最小目盛は「0」ではありません。たとえば40〜200N・mの工具なら、最小は40N・mです。それより下へは回さないでください。
東日製作所の取扱説明書でも、目盛を最小目盛より下げないこと、長く使わないときは最低目盛にセットしておくことが書かれています。戻す位置は工具によって違うこともあるので、手元の取扱説明書に従ってください。
汚れを落とし、湿気と落下を避ける
しまう前に、ほこりや泥、油、水気をふき取ります。汚れがついたままだと、動きが悪くなったり、精度が落ちたりする原因になります。長く使わないときは、さびを防ぐ油を薄く塗っておくよう案内している説明書もあります。
置き場所は、次の点に気をつけます。
- 湿気が少なく、温度の変わりが小さいところ
- 専用のケースに入れ、ほかの工具とぶつからないようにする
- ケースはほこりよけにもなるので、買ったときのものがあれば使う
- 棚から落ちたり、上に物が載ったりしないところ
熱くなりやすい場所や、湿気のこもる場所に置きっぱなしにするのは避けたほうがよいでしょう。
久しぶりに使う前に
しばらくぶりに出したときは、まず見た目に傷みがないか、ラチェットや目盛がなめらかに動くかを確かめます。次に、何度かカチッと鳴らして中のばねをなじませてから、使う数字に合わせます。こうしておくと、締める力がそろいやすくなります。
なお、トルクレンチでナットをゆるめたり、ハンマー代わりにたたいたりすると、無理な力がかかって、壊すおそれがあります。ゆるめるときは、ふつうのレンチを使いましょう。
家で精度を確かめる方法と、その限界
家で確かめられるのは、「大きく狂っていないか」の目安までです。重りやばねばかりを使う方法や、トルクチェッカーという測る道具で確かめる方法はあります。ただ、どれも校正の代わりにはなりません。おかしいと感じたら、校正に出しましょう。
「力×長さ」で確かめるしくみ
トルクは「力×長さ」で決まります。長さは、四角い差し込み口の中心から、握りの目印までの距離です。この距離と、かけた力がわかれば、トルクを計算できます。
たとえば、この距離が0.3mの工具を30N・mに合わせた場合、30÷0.3で、握りの目印に100Nの力がかかったときにカチッと鳴るはずです。100Nは、およそ10.2kgの重さにあたります(数字は計算の例です)。
確かめ方は、ナットなどに差し込んだトルクレンチを水平にし、握りの目印に重りをつるすか、ばねばかりを引っかけて、まっすぐ下に向けて力をかけます。カチッと鳴ったときの重さやばねばかりの目盛が、計算した数字に近いかを見ます。
数字を見るときは、トルクレンチそのものにも許される幅があることを覚えておきます。たとえば「精度±4%」とうたわれた品を100N・mに合わせたなら、96〜104N・mの範囲で鳴れば、その品の精度の内です。ただし、この精度は新品のときのもので、使ったりしまったりするうちに少しずつずれていきます。
ずれが出やすいところ
この方法は、次のようなところで数字がずれやすくなります。
- 長さを測り間違える
- 力をかける向きが、レンチに対して直角になっていない
- 力をかける位置が、握りの目印からずれる
- ばねばかり自体の目盛が正しくない
- ゆっくり引かず、勢いがついてしまう
正式な校正では、使う基準の道具に、測る工具の3倍以上の精度が求められます。家にあるばねばかりで、そこまでの精度を出すのはむずかしいでしょう。
トルクチェッカーを使う方法
トルクチェッカーやトルクテスターと呼ばれる、トルクを測る道具もあります。会社などでは、日ごろの点検で大きな狂いがないかを見るのに使われています。ただ、これも道具そのものの精度が確かめられていなければ、出た数字をそのまま信じることはできません。
校正とどこが違うのか
校正では、国の基準までつながる比べ方の流れ(トレーサビリティ)が確かめられた道具を使います。決まった手順と環境で、いくつかの数字ごとに何度も測り、結果がどこまで確かかも見積もります。家での確認は、こうした条件をそろえられません。あくまで「点検」の一つで、ばねばかりで数字が合っても、校正をしたことにはならないのです。
家で調べて計算どおりなら、ひとまず安心できます。ずれが大きいときや、カチッという音や手ごたえがいつもと違うときは、自分で中を調整しようとせず、校正に出しましょう。
まとめ
タイヤ交換だけに使うトルクレンチでも、校正は買ったときの1回で終わりではありません。年に数回しか使わないなら、回数より先に1年が来るので、1年を目安に考えます。
押さえておきたいのは、次の3点です。
- 校正は、買ったお店を通してメーカーに頼むか、校正業者に頼む。費用と日数は、型番を伝えて見積もりで確かめる。
- 見積もりが新品の値段に近いときや、校正できない品なら、買い替えも選べる。手の感覚だけで締めるのは選ばない。
- 使い終わったら最小目盛に戻し、汚れを落としてケースにしまう。家での確認は目安までで、校正の代わりにはならない。
落としたり、カチッという手ごたえがいつもと違ったりしたときは、1年を待たずに確かめましょう。まずは手元のトルクレンチの型番と、買った時期を確かめてみてください。

