トルクレンチの目盛りを合わせるときの基準は、手元の機種の説明書です。タイヤ交換では、ナットを均等に仮締めしたあと、車の規定トルクまで本締めするために使います。
トルクレンチは、私もタイヤ交換で使っている工具です。この記事では、初めて使う方に向けて、目盛りの読み方とナットを締める手順を説明します。目盛りの具体例は、103N・mと108N・mの合わせ方です。
カチッと鳴らない場合や、何度も鳴らした場合の対処、使用後の設定の戻し方も扱います。
トルクレンチは、タイヤのナットを最後に締めるときに使う
タイヤ交換では、ホイールナットを仮締めしたあと、トルクレンチで車に指定されたトルクまで本締めします。クロスレンチで力いっぱい締めてから、最後に音だけ確かめる、という使い方ではありません。
トルクとは、ナットを回す力の大きさを表すものです。トルクレンチは、締めている最中にその大きさを測る工具。手の感覚で締め具合を決めず、車のメーカーが指定する値に合わせるために使います。
仮締めと本締めでは、することが違う
仮締めは、ホイールを取り付け、ナットを均等に締めてガタつきがない状態にする段階です。クロスレンチなどを使いますが、ここで全力をかけて締め切るわけではありません。
そのあと、車の取扱説明書に従って車体を下ろし、トルクレンチで本締めします。本締めでは、取り付けたホイールのナットを、車に指定された値で締め付けます。
「クロスレンチで締めてから、トルクレンチに持ち替える」という順番自体は同じです。ただ、持ち替える前にどこまで締めたかで意味が変わります。仮締めの段階で指定値を超えてしまえば、あとからトルクレンチを当てるだけでは直せません。
たとえば、仮締めを終えたナットをトルクレンチで締めていくと、設定した値に達したところで合図が出ます。一般的なプレセット型なら、カチッという音や手応えがその合図です。そこで力を止めます。
カチッと鳴っても、締めすぎが分かるわけではない
すでに強く締まっているナットにトルクレンチを掛けると、ナットがほとんど回らないうちにカチッと鳴ることがあります。この音が示すのは、そのときレンチにかけたトルクが設定値に達したことです。
それより前に、何N・mで締められていたかを読み取ったわけではありません。設定より強く締まっているナットでも、同じように合図が出るためです。
そのため、「全部のナットでカチッと鳴ったから、締めすぎもない」とは判断できません。トルクレンチには、締めすぎたナットを自動で緩め、指定値に戻す働きもありません。
確認のつもりで同じナットを何度もカチカチ鳴らすと、さらに力を加えてしまいます。最初の合図で止め、音を繰り返すことを確認の代わりにしないようにしましょう。
強く締めてしまった心当たりがあるときは
締めすぎた心当たりがあり、部品の状態を判断できない場合は、作業を止めて整備店に相談するとよいでしょう。
使う前に、車の規定トルクとレンチの説明書を確かめる
トルクレンチを設定する前に、自分の車のホイールナットを何N・mで締めるのかを調べます。そのうえで、手元のレンチがその値を測れるか、どのように設定して使う製品なのかを説明書で確かめます。
車の指定値は、その車の取扱説明書で調べる
車の取扱説明書で「タイヤの交換」や「ホイールナットの締め付けトルク」の項目を探します。「普通車だから100N・mくらい」といった目安を、そのまま設定値にはしません。
同じ車名でも年式や仕様が違う場合があるため、ネットで説明書を見るときも、自分の車に合うものを選びます。手元の車に当てはまる値か判断できなければ、車種や年式を伝えて販売店に確認するとよいでしょう。
数字を書き留めるときは、単位も一緒に残します。N・mとkgf・mでは、同じ数字でもトルクの大きさが違います。車の説明書の数字だけを見て、別の単位の目盛りに合わせることはできません。
指定値が、レンチの測定範囲に入っているか
トルクレンチには、正しく測れる範囲があります。本体の表示や説明書で「トルク測定範囲」「能力範囲」を見ます。車の指定値が、最小値から最大値までの間に入っているかを確かめましょう。
たとえば、測定範囲が40〜200N・mのレンチなら、103N・mは範囲内です。一方、最大100N・mのレンチで103N・mを扱うことはできません。数字は範囲を読むための例なので、実際には車とレンチの表示を照らし合わせます。
範囲外の値まで無理に回したり、近い数字で代用したりはしません。必要な値を測れない場合は、対応するレンチを用意するか、店に作業を頼みます。
説明書では、設定・持つ位置・使える方向を見る
使う製品によって、ロックの解除方法や目盛りの読み方は違います。説明書では、設定の変え方と固定のしかた、グリップのどこを持つか、測定できる回転方向を見ておきます。
ヘッドの切替レバーを逆に動かせても、その方向のトルクを測れるとは限りません。右回りだけを測る製品もあるため、レバーが動くことと、測定できることは分けて確かめます。
先端に取り付けるソケットも、レンチ側の接続部分とナットのサイズの両方が合うものを使います。説明書が手元にない場合は、本体の型番を調べ、メーカーのサイトや販売店で確認するとよいでしょう。
しまってあったレンチは、使う前に状態を確かめる
ケースから出したら、本体やソケットに割れ、変形、目立つさびがないかを見ます。設定を固定できないなどの異常がある場合も、そのまま作業には使いません。
落としたり強くぶつけたりした心当たりがあれば、メーカーや販売店に点検を相談します。見た目に傷がなくても、衝撃で精度が変わることがあるためです。
以前使えたことだけでは、今も正しく測れるかは分かりません。車の指定値、レンチの測定範囲、説明書の使い方、工具の状態を確かめてから設定に入ります。
目盛りの合わせ方――103N・mと108N・mを例に
主目盛りと副目盛りを組み合わせるトルクレンチでは、2つの値を足して設定値を読みます。たとえば、主目盛りが100N・m、副目盛りが3N・mなら、設定は103N・mです。ただし、主目盛りの刻み方やグリップ1回転で変わる値は、機種によって違います。
主目盛りで大きな値、副目盛りで端数を合わせる
本体側にあるのが主目盛り、回転するグリップ側にあるのが副目盛りです。副目盛りの「3」だけでは、設定が103N・mかどうかは分かりません。主目盛りの値に足して確かめます。
設定するときは、まず説明書に従ってロックを解除し、グリップを回せるようにします。ロックにはねじ式やスライド式があるため、無理に回すのは避けたいところです。解除したら、説明書に示された基準線と、主目盛り・副目盛りの位置を見ます。
103N・mと108N・mに合わせる例
具体例は、ニューレイトンのEM-29のうち、測定範囲40〜200N・mの仕様です。説明書には、103N・mを「100+3」で設定する方法が示されています。
まず、主目盛りの100N・mから伸びる線が中心線に交わる位置に、グリップの0を合わせます。そこから設定値が上がる方向へ回し、副目盛りの3を中心線に合わせると103N・mです。
同じ読み方で、108N・mにする場合は、100N・mの位置から副目盛りの8まで進めます。この例での組み合わせは次のとおりです。
| 設定したい値 | 主目盛り | 副目盛り | 足し算 |
|---|---|---|---|
| 103N・m | 100N・m | 3N・m | 100+3=103 |
| 108N・m | 100N・m | 8N・m | 100+8=108 |
副目盛りの0に戻っても、設定が元に戻るわけではない
グリップを回し続けると、副目盛りは一周して再び0になります。それでも、設定値まで元に戻ったわけではありません。グリップの位置が移動し、主目盛りの読み取る値が変わっています。
たとえば、1回転で10N・m変わる機種なら、100の位置から一周すると110です。同じ0でも、主目盛りが100なのか110なのかで、設定値が違います。
回す途中で何周したか分からなくなったら、回数から推測せず、主目盛りと副目盛りをあらためて読みます。
手元の目盛りが違う場合は、同じ数字を探さない
主目盛りの並びや副目盛りの刻みが違うレンチに、100+3という操作をそのまま当てはめることはできません。自分の機種の説明書で、どの値を足すのかを確かめます。
測定範囲に入っていても、目盛りの細かさによっては指定値にぴったり合わせられない場合があります。目盛りにない位置を目分量で決めたり、近い値へ丸めたりせず、メーカーに設定方法を確認するとよいでしょう。
値を合わせ終えたら、ロックして設定を固定します。最後に、固定するときにグリップが動いていないかも含め、主目盛りと副目盛りの合計が狙った値になっているかを見直します。
仮締めから本締めまでの手順
ナットは最初に手で掛け、対角線の順に均等に仮締めします。そのあと、車の取扱説明書に従って車体を下ろし、トルクレンチで規定値まで本締めします。
1.ナットを手で掛け、引っ掛かりがないか確かめる
平らで固い場所に車を止め、駐車ブレーキや輪止めなど、車が動かないための対策を済ませてから作業します。ジャッキの位置や上げ下げは、車の説明書に従いましょう。
取り付ける前に、ホイールと車体が接する面の汚れを取り除きます。ボルトやナットのねじ部も確認し、傷んでいるものはそのまま締め込みません。
ホイールを取り付けたら、ナットを手で回して掛けます。手で回した段階で引っ掛かる場合は、工具で無理にねじ込まず、取り付け状態やねじ部の点検を頼むとよいでしょう。
2.対角線の順に、ガタつきがなくなるまで仮締めする
すべてのナットを手で掛けたら、車の説明書に従い、ホイールがガタつかない程度まで均等に仮締めします。クロスレンチなどを使う場合も、1個だけを先に強く締め切りません。
締める順は、隣のナットへ順々に移るのではなく、車輪の中心を挟んだ反対側へ移る対角線の順です。4穴なら十字、5穴なら星を描く順が基本ですが、実際の順番は車の説明書の図で確かめます。
少しずつ全体を締め、ホイールが偏って取り付けられないようにします。この段階で、体重をかけて締め込む必要はありません。
3.車体を下ろし、トルクレンチで本締めする
仮締めを終えたら、周囲を確かめて車体をゆっくり下ろします。本締めする際のタイヤの接地状態やジャッキを外すタイミングも、車の説明書に合わせましょう。
設定とロックを確認したトルクレンチに、サイズの合うソケットを確実に取り付けます。ナットには奥までまっすぐ掛け、斜めや浅い掛かり方のまま力を加えません。
グリップは、工具の説明書に示された位置を握ります。一般には中央付近ですが、先端寄りや根元寄りを適当に持たず、力をかける位置を確認しましょう。
ハンドルに対して直角の方向へ、ゆっくり力をかけます。一般的なプレセット型なら、カチッという合図で力を止めます。勢いをつけたり、足で踏んだり、パイプを継ぎ足して回したりはしません。
4.すべてのナットを、同じ手順で締め終える
本締めも対角線の順に進め、各ナットを規定トルクまで締めます。どのナットを終えたか確認しながら進めれば、途中で締め忘れたものを残しにくくなります。
説明書にある「2〜3回に分けて締める」は、全体を均等に締めていくための説明です。同じナットで、規定値のカチッを2〜3回繰り返す意味ではありません。
1個のナットで合図が出たら力を止め、次へ移ります。最後に、すべてのナットについて本締めを済ませたかを確かめます。終わったものを念のため何度も鳴らす確認はしません。
カチッと鳴らないとき、繰り返し鳴らしてしまったとき
カチッという音が聞こえなくても、合図が出るまで力をかけ続けるのは避けます。まず力を抜き、設定や工具の使い方を確かめます。何度も鳴らしてしまった場合も、音の回数だけでは、どれくらい締めすぎたかは分かりません。
音が小さいことと、合図が出ていないことを分ける
プレセット型の合図は、音だけとは限りません。ヘッドがわずかに動く感触や、手に伝わる軽いショックも合図です。作業する場所がうるさいと、音を聞き取りにくいこともあります。
たとえばKTCのプレセット型には、設定トルクや個体差によって音が鳴らないこともある製品があります。音の大きさだけで、まだ設定値に達していないと決めないほうがよいでしょう。
反対に、手応えも含めて合図を確認できない状態を、正常だと判断することもできません。鳴らそうとして勢いをつけたり、体重をかけたりはせず、いったん作業を止めます。
設定・使う方向・握る位置を確認する
止めたら、設定した値と単位、測定範囲、ロックの状態を見直します。設定値が車の指定値より高いと、合図が出る前に締めすぎてしまうおそれがあるためです。
ヘッドの切替方向が合っているか、その方向のトルクを測れる機種かも確認します。ソケットが奥まで掛かっているか、説明書で指定されたグリップの位置を握っていたかも見ます。
確認しても合図が分からない、以前とは感触が違うといった場合は、そのレンチで作業を続けません。メーカーや販売店に点検を相談します。自分で分解したり、内部を調整して音を出そうとしたりはしません。
何度も鳴らしたあと、音だけで締めすぎは調べられない
一般的なプレセット型は、カチッと鳴ったあとも力をかければ、ナットに力が伝わります。繰り返し鳴らしたことで、規定値を超えて締めてしまうおそれがあります。
ただし、「2回鳴らしたから必ずボルトが壊れた」「3回なら何N・m増えた」と、回数から決めることはできません。そのときの加え方や、実際の締め付け状態を確かめる必要があります。
設定を低くして同じナットに当て直しても、以前に何N・mで締めたかを測れるわけではありません。今度は1回だけ鳴らせば、すでに加えた締め付けが取り消される、というものでもありません。
締めすぎが疑わしいなら、締め直しと点検を考える
締めすぎた可能性がある場合は、上からもう一度締めるのではなく、一度緩めて規定トルクで締め直します。緩める作業には、締め付け専用のトルクレンチを使いません。
ただ、すでに傷んだボルトやナットは、締め直すだけでは元に戻りません。強い力をかけた心当たりがあり、部品の状態や安全な締め直し方を判断できない場合は、整備店に相談するのがよいでしょう。
相談するときは、設定した値、繰り返し鳴らしたこと、足で踏むなどの加力をしたかを伝えます。合図を聞き逃したのか、工具の不調なのか、締めすぎたのかを、追加の締め付けで確かめようとしないことが大切です。
使い終わったら、説明書に従って設定を戻す
タイヤ交換を終えたら、トルクレンチを使った値のまましまわず、説明書で指定された保管時の設定に戻します。一般的なプレセット型では、測定範囲の最小値が戻す位置です。戻したあとは汚れや水分を取り除き、ケースに収めます。
最小値へ戻すのは、ばねへの負担を減らすため
ばねを縮めて設定値を変えるプレセット型は、高い値に合わせたままだと、保管中もばねに力がかかり続けます。その状態で長く置くと、ばねのへたりによって測定精度が落ちるおそれがあります。
春と秋のタイヤ交換だけに使う場合は、作業のあと数か月しまうこともあるでしょう。次の交換ですぐ使えるようにと、車の規定値に合わせたまま残すのは避けたいところです。
設定を戻すのは、精度の低下を抑えるための片付けです。すでに生じたずれを直す操作ではないので、これだけで校正が済むわけではありません。
「0にする」「回らなくなるまで緩める」とは違う
たとえば、目盛りの説明に使ったEM-29の40〜200N・m仕様では、保管時の指定は40N・mです。測定範囲の最低値へ合わせるよう案内されています。0N・mまで下げる、という意味ではありません。
副目盛りの「0」も、設定全体が0N・mになったことを示す数字ではありません。戻すときも主目盛りと副目盛りを組にして、最小値になっているかを読み取ります。
最小値を過ぎてもグリップが回る製品はありますが、回せるところまで緩めてよいわけではありません。範囲を超えて動かすと、内部の機構がかみ込む場合もあります。
設定を変える前には、その機種の方法でロックを解除します。戻す方向や、戻したあとのロックの扱いも説明書に従いましょう。保管時の指定が見つからなければ、型番を確かめてメーカーの説明書を探すとよいでしょう。
汚れと水分を取り除いてからケースへ入れる
設定を戻したら、本体やグリップについた泥、ほこり、油、水分をふき取ります。汚れを残したまましまうと、動きが悪くなったり、精度が落ちたりする原因になるためです。
手入れで使う油や塗る場所は、説明書で確認します。防錆油を使う案内があっても、内部やヘッドへ自由に吹き込んでよいという意味ではありません。機種によっては、ヘッド内への注油やグリスの塗布を禁じています。
きれいにしてから専用ケースへ収めれば、ほかの工具とぶつかったり、ほこりが入り込んだりするのを避けやすくなります。
ケースは、高温多湿や落下を避けられる場所へ
ケースに入れたあとも、湿気や熱のこもる場所は避けます。ほかの工具と一緒にむき出しで放り込まず、ケースごと安定して置ける場所を選ぶのがよいでしょう。
次に取り出したときは、傷みやさび、操作時の異常がないかを確認します。保管時の最小値は、タイヤを締めるための値ではありません。作業前に車の規定トルクへ設定し直す必要があります。
使用後は保管のための設定へ、使用前は作業のための設定へ。この切り替えを、説明書の手順に沿って行います。
まとめ
トルクレンチは、車に指定された値へ設定し、仮締めを終えたホイールナットの本締めに使います。先に強く締め切ってから音だけ確かめても、過去の締めすぎは分かりません。
使うときに押さえたいのは、次の3点です。
- 車の規定値と単位を確認し、自分のレンチの目盛りの読み方に従って設定する。
- ナットを対角線の順に締め、プレセット型では最初の合図で力を止める。
- 使用後は説明書で指定された保管時の設定へ戻し、汚れや水分を除いてケースに収める。
音が聞こえないときも、鳴るまで力をかけ続けるのは避けます。合図や部品の状態に不安があれば、作業を止めてメーカーや整備店に相談できます。
これから使うなら、まず車の取扱説明書で、ホイールナットの規定トルクを確かめてみましょう。
